憎しみでも、蔑みでも・・・・何でもいい。
貴方の瞳に私が映っている。
貴方が私の熱を直に感じている。
それで・・・それだけで、幸せなのに・・・・どうして今、切ないんだろう・・・・。
** 契 約 **
「・・・ん、あ・・・っ」
「どこが良いのか言ってごらん?」
全裸の香穂子と、着物が肌蹴ているだけの柚木。
胸を掌でやわやわと揉みしだきながら、耳元で低く囁く。
揉まれている指の隙間からはツンと尖って自己主張している突起があるが、柚木はあえて触れなかった。
もう片方の手は腰から太腿の辺りを撫でて、時折思わせぶりに内腿を触っていく。
「や・・・も、意地悪しな・・・・でっ・・・」
「なら言えよ。 じゃないと、いつまでもこのままだぞ」
「・・・はぁ、ぁ・・・・胸の、一番硬いところが・・・・っいいの・・・!」
「ここか?」
「ふぁあぁっ!」
香穂子は嬌声をあげてコクコクと頷いた。
それに気を良くした柚木は重点的に胸の突起を可愛がる。
舌で飴玉みたいに転がされ、指ではピンッと悪戯に弾かれて感じてしまう。
喘いでいる最中、足の間は既に大変な事になっていて・・・・その事に香穂子自身が一番驚いていた。
水揚げされた時から幾度もした行為だけれど、今までこんなに感じる事なんて無かった。
いつも客の気分を害さないようにと必死で演技するけれど、それもどうやら下手らしい。
香穂子の売れない一番の原因はそれなのだと自覚はしているが、自分ではどうしようもない。
特に仲来の時は本当に感じなくて、潤滑油を使っても足りなくて・・・・最近では薬で無理やり快感を引き出している。
薬の使用は法度だし、本当は逃げ出したいくらいに怖かった。
だけど、それを見世側に報告しないのは単に客が離れていくのが嫌なだけじゃない。
香穂子自身も薬の効果を利用しているから。
頭が真っ白になって快楽だけが全てになってしまえば、柚木を思い出す事もなくなるから・・・・。
―――でも、今はこうして柚木自身に抱かれている。
これは夢じゃない。 ずっとずっと恋焦がれてやまなかった人に抱かれているのだ。
(満たされてしまった今の私に、薬なんかで誤魔化しきれる・・・・・?)
ふと過ぎった考えに香穂子は、たちまち不安になった。
「今、何を考えている?」
物思いに耽っていた香穂子は柚木の声でハッと我に返る。
見上げれば柚木の瞳は真っ直ぐに香穂子を捕らえていた。
「俺に抱かれている時くらい俺の事を考えていろ」
「・・・んっ、考えてます・・・・いつも・・・」
思わず出た本音。
柚木もその言葉には驚いたらしく目を見張った。
しかし、それは直ぐに不審げな瞳に変わる。
「そんな白々しい嘘は吐くな。 ・・・ああ、それともそれが遊女の手管か」
「違・・・! 本当です・・・っ」
「どうせ、同じような事を他の客にも言っているんだろう?」
「違う、違います・・・・」
香穂子は否定を繰り返し、首を横に振り続ける。
あの日――柚木から離れたあの時も、この二年間も、柚木を想わなかった日は一日だってなかった。
けれど今更好きなどとは言えないから・・・・・・。
誤解だけはして欲しくなくて、香穂子は否定し続けた。
だが、そんな気持ちも柚木に届く事はなかった。
「・・・・うるさいよ、もうお前の言葉なんて信用できないんだから・・・・っ!」
「ああぁ――――・・・・っ!」
唐突な挿入に香穂子は目を見開く。
しかし、そこは充分に準備が出来ていたため傷付く事はなかった。
「くっ・・・、慣らしもしないで・・・咥え込むなんてな・・・・・っ」
「そんな・・・・はず、ない・・・・」
「誰に開発されたの? 客? それとも、あの楼主か・・・・?」
「ちが・・・違う・・・開発なんて、されてな・・・・っ」
「――――淫乱」
柚木は、突き放すように冷たく吐き捨てた。
何度も香穂子が 『違う』 と言っても聞く耳すら持ってもらえない。
そもそも、こんなに感じて濡れてしまうのは、他ならぬ柚木に抱かれているからなのに。
他の客としている時には、反応なんて全くしなかった。
信じてもらえないもどかしさに涙を零す。
「泣くほど悦いのか? とんだ好き者だね・・・・じゃあ、そろそろ動いて欲しいだろ?」
「・・・・・もう、や・・・許して・・・・っ!」
「上の口は嘘吐きだね・・・お前の中、ヒクヒクして・・・・下は随分と素直みたいだな・・・・」
そう言って柚木は香穂子の片脚を自分の肩に掛けて、ゆっくりと抜いていく。
全て抜けそうになったものを再び勢いを付けて押し入れる。
更に最奥まで届いたそれを、また抜いて押し込む。
途中で香穂子の弱点を見つけた柚木はわざと其処ばかりを狙う。
「あっ、あっ・・・あぁ・・・・っ!」
だが、達するまでには至らなくて熱が余計に燻ってしまう。
柚木は香穂子を攻め立てたまま、そっと耳打ちをする。
「普段は何処をどうされているの・・・?」
「・・・そんな、こと・・・・っ」
「入れられたまま、この硬くなっている所も触られたりするのか?」
「んんっ・・・ふぁ、あ・・・・」
胸で遊んでいた手はスッと下へ降りてきて、今度は中心の芽を弄び始める。
円を描くようにコリコリとされるだけで下半身が溶けてしまいそうなくらい気持ちがいい。
だけど、その間にも柚木は言葉で追いつめていく。
「それとも、ここに相手の顔を挟んで・・・・いやらしく舐められた?」
「・・・・・・・っ」
「ほら、答えて。 イきたいだろう・・・・?」
「・・・・っ・・・た・・・」
「なに? 聞こえないよ」
「・・・され、た・・・けどっ、感じなかっ・・・・・やあぁっ!」
言葉の途中で急に奥を突かれ、嬌声があがる。
「嘘は吐くなって、言った筈だけど?」
「嘘じゃ、ない・・・・あぁっ・・・!」
「ココをこんなに濡らしているヤツが、感じない訳ないだろ」
「・・・でもっ・・・ほんと・・・に・・・・・あ、ぁ・・・っ」
「もういい、イけよ・・・っ・・・俺も・・・もうっ・・・・!」
激しく出し入れをされ、もう言葉が話せない。
ビクンと身体を反らして香穂子が達するのとほぼ同時に柚木が低く呻いた。
「香穂子、眠いのか・・・・?」
「・・・・ん・・・・」
薬の力も何も借りないでこれだけ乱れたのは初めてなので疲れがどっと押し寄せた。
既に夢と現を彷徨っている香穂子は、返事とも寝言ともつかない声を返す。
けれど、ここで眠る訳にはいかない。
相手より先に寝てしまう事は娼妓として絶対に許されないのだ。
「・・・まだ、平気です・・・・」
重い瞼を擦って眠気と格闘していたら、柚木は黙って布団を引き寄せる。
「柚木様・・・・・・?」
「いいから、さっさと寝ろ」
「・・・でも・・・」
「俺が眠いんだよ。 勿論、付き合ってくれるよな?」
「・・・! はい・・・」
それは自分を気遣っての言葉だと解り、香穂子は顔を綻ばせた。
物言いは随分と高圧的だけれど、根本的な優しさは香穂子の知る柚木のままだ。
同じ褥の中で背を向けている彼に小声で 『お休みなさい』 と呟いて香穂子も瞳を閉じた・・・・・。
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★あとがき★
ちょい長くなりました。
エロを書くと切る場所がなかなか無くて困る・・・・(汗)