『無抵抗』 を決意した香穂子は、その数分後に激しく後悔をした。
抵抗できる内に逃げ出してしまえば、こんな辱めを受ける事もなかったのに・・・・。
けれど、もう遅い。
腕を拘束され、視界まで遮られた今となっては。
制服を乱らせ、組み敷かれた体勢は―――・・・
肉食獣に食べられる時を待つ草食動物みたいだ・・・・。
「あぁっ・・・やぁあ・・・」
柚木のタイで目隠しをされ、鋭敏になっている身体を容赦なく攻められる。
その指でも舌でもない奇妙な感覚に香穂子は首を振り続けた。
胸の先端をさわさわと撫でている何か。
「な、なにっ? やめ・・・っ・・・」
「さっき面白いものを見つけてね。 気持ちいい?」
問われて香穂子は咄嗟に首を横に振る。
「そう? でも、身体は正直だぜ」
「ひゃう・・・っ」
今度は指で先端を摘ままれ、予期せぬ強い刺激にあられもない声が洩れてしまった。
指と柔らかいものにそれぞれの胸を愛撫される。
指は強弱を付けながら時折爪で軽く引っかかれ、柔らかいものは単調にサラサラと撫で続けた。
程なくして、両方の胸の先端がジンジンと痺れ始める・・・・。
「ああ、尖ってきたね・・・」
その言葉に頬を真っ赤に染めて顔を背ける。
香穂子が恥ずかしがるのを知ってて態と言っているのだから性質が悪い。
やがて胸を弄っている指はそのままに、柔らかいものだけが身体を降下していく。
その何とも言えない感覚にビクビクと身を慄かせた。
そして、辿り着いた場所は・・・・・・。
「・・・ああぁっ!」
さわり、と足の間にある花芽を撫で上げる。
裂け目を沿うように今度は下へ移動した。
再び花芽に触れて、大袈裟なくらいに声が出てしまう。
「あっ、あァ・・・やあぁっ」
「やっぱり早いな、もうトロトロ。 毛先がお前の蜜に絡んで濡れていくよ・・・」
「・・・毛って・・・? あぁんっ・・・」
「まだ解らないのか? じゃあ、正解するまでコレで遊んであげる」
「そ、そんな・・・」
香穂子は愕然として呟いた。
ある程度の快感はあるものの、それもそこまで。
今求めている快感はこんな前戯にも満たないものではなくて、達する事が出来る程の快感なのだ。
それなのに、これ以上焦らされたら・・・・確実に狂ってしまう。
「ん、あっ・・・と・・・め・・・!」
「ちょっと考えれば直ぐに解るだろ。 そしたら止めてやるよ」
花芽を嬲る手は止めずに、柚木は香穂子の耳元で甘く囁く。
その耳に掛かる吐息にさえも感じてしまい、考え事など出来る筈もない。
・・・・もっとも、そうさせているのは柚木自身だ。
初めから考える余裕を与える気は毛頭ない。
「日野、解ったか?」
「やぁっ・・・解んな・・・・っ」
「――― 仕方ないね。 じゃあ、ヒントをやるよ」
そう言って柚木は花芽を撫でていたものを止める。
「こっちは持つ方の柄の部分だよ」
「・・・柄・・・?」
香穂子は刺激が止んだ間に想像するが、今度は濡れそぼった秘部に硬くて細いものが宛がわれた。
それを何かと考える隙もなく、無遠慮に押し入ってくる。
「あああぁ・・・!」
指より少しだけ太い無機質なそれは、驚くほど奥まで侵入した。
最奥に到達すると今度はズルリと引き抜かれる。
しかし、抜けるギリギリまで引いたら今度は一気に埋められた。
柚木は狙いを定めて、香穂子の最も弱い処を思いっきり突き上げる。
香穂子は背を撓らせながら、首を横に振った。
そうでもしなければ、達してしまいそうなのだ。
快楽に流されまいと必死な表情の香穂子を見て、柚木は怪訝な顔をする。
「・・・・イきたくないの?」
その問いかけに、香穂子は当たり前だ! と、叫びたかった。
身体を拘束され目隠しまでされた上に、わけの解らないモノで攻められて・・・・。
こんな状況で達するのは真っ平だ、と言えたらどんなに良いか。
けれど、今怒鳴ろうと思ったら確実に大声で喘いでしまう事になる。
だから香穂子は大きく頷く事で意思表示した。
「―――ふぅん・・・・」
対して柚木は、僅かに瞳を細めるだけだった。
口元には意地の悪い笑みを浮かべて。
香穂子の返答は彼の嗜虐心を煽ってしまったのだ。
「じゃあ、そのままイッてもらおうか」
「えっ・・・?」
「やあぁああぁ・・・・!!」
先程よりも激しく力強い注挿に、香穂子は身を慄かせて達してしまった。
全身を脱力させて荒い呼吸を繰り返していると、不意に視界が闇から光へと転換した。
柚木が目隠しを取り外すし、含み笑いの表情で見下ろしている。
「・・・で、答えは解ったのかな? 日野さん」
「――― 解る訳ないじゃないですか」
「そう?詰まらないね。 正解はこれだよ」
柚木は手に持っていたそれを香穂子の方へと投げた。
コロコロと転がってきたものは・・・・・・。
ぐっしょりと濡れそぼった一本の毛筆だった。
何故濡れているのかなんて聞くまでもない。
香穂子は頬をカッと朱に染めて、鋭い眼差しで柚木を睨み付けた。
「・・・ひどい・・・人を嬲って、そんなに楽しいですか・・・・ッ」
「ああ、楽しいね。 お前が堕ちていく様は、特に・・・」
「―――っ、最低・・・!」
柚木に罵声を浴びせるが、香穂子の胸中は痛みに悲鳴を上げていた。
自分はそれ程までに嫌われていたのだ、と・・・改めて思い知る。
一体何が柚木の逆鱗に触れてしまったのだろう。
彼の隠された素顔を暴いてしまった事?
それとも、先程のように反発して今まで悪態を付いていた事?
それとも、距離を置かれたにも関わらず未だ未練たらしく想いを捨て切れていない事・・・・?
――― いや、寧ろ・・・『日野香穂子』 という存在自体が目障りなのだろう。
その結論に至った時、香穂子は初めて涙を零した・・・・・。
今まで、どんなに手酷く弄ばれても決して泣いたりしなかった。
泣く理由なんて何も無かったから。
例え香穂子が望まない形での行為だったとしても、相手が柚木ならば何も悲しくなどない。
身体を弄ばれる事の恥ずかしさよりも、触れてもらえる嬉しさの方が勝っていたから。
どんなに冷ややかな眼差しでも、柚木の瞳に自分の姿が再び映っていて・・・・とても幸せだと感じた。
しかし、先程まで憤っていた理由は、言葉で貶められて自分の存在が軽んじられたからに過ぎない。
だが、それも今となってはどうでもいい感情だ。
香穂子胸の内は、好きな人に 『存在否定』 された痛みだけが渦巻いていた――――。
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