アイツの涙を初めて見て、湧き上がった罪悪感。

けれど先程、他の男に向けていた笑顔を思い出して

再び、どす黒い感情が溢れ出す・・・・・・。





















「・・・泣くなよ・・・」


静寂を取り戻した室内に、柚木の声だけが響いた。

香穂子はまるで聞こえていないかの様な無反応で、涙を拭いもせずに流し続ける。



次第に高まる苛立ち。



それは香穂子に対してなのか、自分に対してなのか、明確には解らなかった。

もしかしたら、両方かも知れない。



「・・・そんなに俺が嫌い?」



柚木はチッ、と 小さく舌打ちする。



他の男には満面の笑顔を見せるクセに、自分の前で香穂子はこういう表情しか見せない。

過去に、笑顔を見た記憶なんて・・・・・性格を偽って接していた時くらいだ。

本性を明かしてからは、苦笑とも取れる微笑みや、困った表情・・・・または、泣き出しそうな顔しか見ていない。



だが、本来明るい性格の香穂子に自分がそういう表情をさせているのだ。



だから、香穂子を責めるのはお門違いだって事も充分承知している。

承知していても、やり切れない想いがあった。

この行為は完全な八つ当たり。 そして、ただの醜い嫉妬だ。



「日野、泣くのは・・・まだ早いぜ?」



柚木は残酷に言い放ち、微笑む。



彼女の足を大きく開かせ――― 怒張した自身を宛がった。

先程の蜜が潤滑油の役割を果たしヌルリと滑る。

柚木は香穂子の片足を肩に乗せ、宛がったものを中へと押し入れた。



「・・・っ、ああああぁ!」



容易く最奥まで埋まった楔の圧迫感に、香穂子は一瞬息を詰まらせて高く啼いた。

柚木は構わずにそのまま動き出す。

その時、焦点の合っていなかった瞳が真っ直ぐに柚木を見上げる。

彼女の瞳は戸惑いと、僅かな疑問の色が浮かんでいた。



「・・・ん、で・・・っ・・・」

「なに?」

「なんで・・・っぁ、きら・・・なのに・・・抱くの?」

「嫌い? 誰が、誰を?」



柚木は怪訝な顔をして、一旦動きを止めた。



「嫌っているのはお前の方だろ。 今だって泣いているクセに」

「・・・そ、それは・・・柚木先輩が強引過ぎるから・・・・って言うか、私は嫌いだなんて一言も言ってません」

「・・・・・え?」



かみ合わない相互の意見に柚木は首を傾げる。

やがて・・・もの凄く自分にとって都合の良い考えが浮かんだ。



「お前さ・・・もしかして、俺の事好きなの?」

「――― なっ・・・」



柚木のストレートな問いに香穂子は絶句する。

彼女は固まったまま微動だにしなくなってしまった。



「沈黙は肯定として受け取るけれど・・・?」

「・・・・ひぁっ! きゅ、に・・・動かな・・・っ」

「・・・っほら、質問に答えて・・・」



先程よりも締め付けが強くなった所為で柚木の息も徐々に乱れ始める。

しかし、香穂子を追い詰める事は止めない。

わざとポイントばかりを突いて自白を迫った。



「やぁっ・・・も、もうイっちゃう・・・!」

「ダメ。 言うまでイかせてやらないよ」



今度は緩めに突き上げて達しない程度の快楽を与え続ける。

そうして、香穂子は遂に口を開いた。



「・・・・す、き・・・・柚木先輩が、好きなのっ・・・!」



予測していた告白。

だけど、それがこんなにも嬉しいものだとは知らなくて。

今まで燻っていた黒い感情が一気に溶けてゆく。

自分は一体、何を勘違いしていたのだろう・・・・。



「・・・ぁっ・・・せ、ぱ・・・の・・・気持ち、は・・・っ?」



いやらしく乱れながら、それでも不安そうな表情で聞いてくる香穂子がとても可愛いと思った。

でも、もう少しだけ・・・困った顔が見たい。

――― こんな俺でごめんね。



「さぁ、どうだろう? 香穂子はどう思う?」

「・・・・なっ!? 信じられな・・・あぁッ!」



緩くしていた動きを強いものへ変えた。

散々焦らされていた彼女のそこは待ちきれないというように柚木を締め付けてくる。

互いにもう余裕などなかった。



「・・・一緒、に・・・香穂子・・・・ッ・・・」

「あ・・・っ、あああぁ・・・!」










**************









ぐったりと横たわる香穂子の身体を拭いて、制服を整える。

流石に疲れたのか深い眠りについている彼女の髪を優しく愛しげに撫でた。



「・・・ごめんね・・・俺も香穂子が好きだよ」



呼び名を 『日野』 から 『香穂子』 へ。

こんな時しか素直に言えない自分が情けなく感じる。



「今思えば、お前に本性をバラした時から俺は惚れていたのかもな・・・」



しかし、それを認めたくなくて 『オモチャ』 だと自分にも言い聞かせた。

だけど嫉妬心だけは抑える事が出来なくて・・・・結果、香穂子を無体に抱いてしまった。

自分でも馬鹿馬鹿しくて嗤うしかない。



「・・・・その話、本当ですか?」



突然、眠っていた筈の香穂子がぱちっと大きな瞳を開いた。

柚木は驚きを隠せず、一瞬だけポカンとしてしまう。

だが先程の恥ずかしい告白を思い出し、さっと朱が走る。



「お前、いつから・・・っ」

「初めから起きていました」



という事は、全て聞かれていた事になる。



「・・・ああ、そう・・・」


柚木は脱力して決まり悪そうに顔を背けた。

それでも視界に入る香穂子の表情は、さっきまで泣いていた人物とは思えないくらい満面の笑みだ。

女とは時に現金な生き物だけれど、香穂子も例外ではないらしい。



「ねー、先輩。 私の事いつから好きでした?」

「・・・・・」

「ねー、ねー、もう一回言って下さいよー」

「・・・・・」

「ねー、ねー、ねー」

「・・・ウザいんだよ、お前は!」

「ひぁっ!?」



ついにキレた柚木は、再び香穂子の上へ圧し掛かった。

調子に乗りすぎたと理解した香穂子は途端に顔色が蒼くなる。



「また僕に犯されたいかい?」

「ご、ごめんなさい! もう言いません・・・!」



優等生モードの笑顔で脅迫する柚木は本当に怖かった。

香穂子はぶんぶんと首を横に振って、逃げ腰になる。

だけどそれは叶わず、腕を掴まれ接近する柚木の美貌に思わず首を竦ませた。



「バーカ。 何もしないよ」


瞳をおそるおそる開けると、額に優しい口付けが一つ落とされる。




「・・・・柚木先輩?」

「もう傷付けたりしない。 今までの分も大事にしてあげる」

「本当ですか・・・? また突き放したり、しない・・・?」

「ああ。 だから俺の側に居て、俺だけを見て。 俺も・・・香穂子一筋だから」




柚木の真摯な告白を受けて、香穂子は止まった涙が再び溢れ出す。

それを見て彼は少し困ったように微笑んだ。

そして何度も瞼にキスを落とす。




「・・・・このくらいで泣くなよ。 どうしたら良いか解らなくなるだろう」

「ごめ、なさ・・・っ」

「ほら、笑って? お前の笑顔をあまり見た事がないんだから」

「・・・はい・・・」



頷いて、香穂子はふわりと微笑った。

泣き笑いの表情だったけれど、柚木はそれを眩しそうに目を細める。





互いの想いが複雑に絡み合い交差して、遠回りした二人だけれど・・・・・・・

今、ようやく心は一つに繋がった――――。









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★あとがき★

メルフォリクで、郁さまに捧げます。
そして、お待たせしてしまい本当に申し訳御座いません!
内容は激裏・軽くSMチックに、筆攻めして・・・でも、愛はある・・・という感じでしたが、
如何でしたでしょうか・・・・・?? (汗)
郁さまのみ、この作品のお持ち帰りは可です。
因みに、返品も可です。
これに懲りず、また仲良くして頂けたら幸いです。