「・・・ぁっ、は・・・んんっ」 香穂子は唇を噛み締めて、必死に声を漏らすまいと耐える。 舌で胸の尖りを弄られて片手は香穂子の敏感な芽をそっと撫で上げられ、身体がビクリと跳ねた。 何も身に付けていない上半身はうっすらと汗ばみ、腕は制服が絡みついて思うように動かせない。 抵抗できない、という事実が香穂子を追い込んでいく。 「やだっ・・・もう、やめ・・・・あぁ・・・っ」 身体を捩って逃げようとしたら、直ぐに強い力で押さえつけられた。 眦には涙が溜まり、それでも香穂子は気丈にも目の前の男を睨みつける。 「なに? 誘っているの?」 香穂子を下に組み敷いて、楽しげにクスクスと笑っている男 ―――柚木梓馬は、本当にあの柚木先輩なのか・・・・。 いつも香穂子を気遣ってくれて、優しかったあの人は何処に行ってしまったのだろう。 「・・・ほら、もっと啼けよ」 「いやあぁ・・・っ」 グイッと大きく脚を割られ、その中心に柚木は顔を埋めた。 今まで弄られていた芽を今度は湿った舌で転がされる。 トロリと溢れる蜜の量が増えたのが自分でも解った。 それを啜る音とピチャピチャという淫らな水音が香穂子の聴覚を犯す。 柚木の巧みな攻めに、もう声を抑える術などなかった。 同時に、悔しさと憤りと・・・・悲しみだけが胸を占める。 瞳を閉じて想うのはあの人だけ―――。 A c t 1 . ――― 1週間前。 4限目の授業終了のチャイムが鳴り、香穂子は慌てて音楽準備室に走った。 バンッと勢いよく扉を開けると、驚いた表情の金澤と目が合う。 「・・・・お前、そんなに強く開けるとドアが壊れるぞ」 「だって、先生と一緒にお昼食べれるのって週に1回だけなんだもん!」 呆れとも取れる溜め息を吐いてストンと椅子に腰を下ろす。 香穂子もその向かいに座りながら口を尖らせた。 香穂子と金澤は恋人同士だが、生徒と教師という立場上お昼は週1の水曜日だけ一緒に食べる事にして、 勿論デートもあまりしない。 したとしても、金澤の自宅か・・・長期休暇を利用しての遠出になる。 秘密厳守なのは理解しているし、もし万が一この関係が学校側にバレたら全ての責任は金澤に掛かってしまう。 それだけは絶対に避けたいから我が儘は言わないと決めている。 しかし、不満が全くないと言えばそれは嘘だ。 ツーンとそっぽを向く香穂子に苦笑して、金澤は頭をくしゃくしゃと撫でる。 「悪い悪い。 これでも楽しみにしてるんだぞ? お前さんの手作り弁当」 「・・・・先生の分なんか、ありませんよーだ」 照れ隠しにそう言うと金澤はふっと吹き出す。 「太るぞ?」 「・・・! 絶対に渡しませんからねっ!」 地雷を踏んでしまった金澤はやれやれと肩を竦め、香穂子のご機嫌取りに回る。 いつもこんな感じの二人だが、香穂子はそれだけで幸せだった。 そして、そんなささやかな幸福はずっと続くものだとも―――・・・。 楽しかった昼休みも瞬く間に終わり、香穂子は最後にキスをして名残惜しげに準備室を出る。 教室へ戻る途中の階段に差し掛かると後ろから声を掛けられた。 「日野さん」 「あ、柚木先輩!」 香穂子は柚木の姿を確認すると笑顔で駆け寄る。 立っているだけで絵になるその人は、同じコンクール参加者である3年の柚木梓馬。 香穂子は彼の優しいフルートの音色が好きだった。 勿論、柚木自身も。 いつも自分の事を気に掛けてくれて、優しく接してくれた柚木は香穂子にとって兄のような存在である。 「こんにちは。 相変わらず綺麗ですね、先輩」 「男としては複雑な表現だけれど・・・・ありがとう。 日野さんも充分可愛いよ」 にっこりと微笑む柚木に、お世辞だと解ってはいるが思わず赤面してしまう。 ぎこちなくお礼を言ってその会話は強制終了させる。 自分から言い始めたのに・・・とか言う突っ込みは、この際なしだ。 「柚木先輩はどうしてここに? 音楽科の校舎って別ですよね」 「ああ、そうそう。 君に大事な話があって来たんだよ」 「大事な話、ですか?」 「うん。 けど、もう休み時間が終わるから放課後でいいかな?」 「はい、全然OKですよ」 「良かった。 それじゃあ、練習室を予約しておくからHR終わったら来てね」 「解りました」 香穂子が頷くと、柚木も笑って音楽科の校舎へと戻って行った。 その後ろ姿を見送りながら、香穂子は首を捻る。 しかし、あまり深く考えずに香穂子も再び教室へと歩き始めた。 そして放課後。 言われた部屋の前まで来て、香穂子はトントンと2回ノックする。 中から 『はい』 という穏やかな声と同時に扉が開かれた。 「早かったね。 さぁ、入って」 柚木は香穂子を中へ招き入れると、後ろ手で扉を閉める。 この時、扉の鍵も閉められたのだが香穂子はそれに気付かなかった。 「柚木先輩、大事な話って何ですか?」 「うん・・・・少し言いにくいんだけれど、君にお願いがあるんだ」 「お願い?」 「ああ。 学内コンクールの事で、ちょっとね」 珍しく歯切れの悪い物言いをする柚木を目の前に、香穂子はだんだんと緊張が高まる。 第3セレクションを目前にして何かトラブルでもあったのか。 思考はどうしても悪い方向にいってしまう。 だが・・・・その勘は当たっていた。 「日野さん、君・・・コンクールを辞退する気はない?」 「・・・・・え?」 「ごめんね。 急にこんな事を言って、君を混乱させたい訳じゃないんだ」 「ど、どうして・・・そんな・・・」 「・・・理由は日野さん自身が一番わかっているんじゃないかい?」 「どういう事ですか・・・・?」 「僕はね、音楽に対して真摯であれば誰でも参加資格はあると思っているよ。 でも・・・」 「私は真剣です! そりゃ、技術的にはまだまだ未熟ですけど・・・・。 でも、音楽が好きっていう気持ちは音楽科にだって負けてませんっ!」 「そう言うと思ったよ。 君は努力家で、人一倍頑張っているからね」 「・・・・・・・・・・」 「でも、あんなのを見てしまったら・・・・君を信用する事は難しいよ」 「あんなの?」 「8月20日、軽井沢に行ったよね。 金澤先生と二人で」 断定的な口調で柚木は告げる。 その瞬間、香穂子の心臓は手でわし掴まれたかのようにドクンと高鳴った。 明らかに先程と様子の違う香穂子を尻目に、柚木は更に続けて言う。 「あの日は避暑目的で別荘へ向かう途中、たまたま日野さん達を見かけてね」 「・・・・・・・・・」 「・・・ねぇ、僕の言いたい事わかって貰えたかな?」 「・・・・・・っ」 「中途半端な気持ちでコンクールに出場するのは、リリにも他の参加者にも失礼だとは思わない?」 「中途半端な気持ちじゃありません! ・・・先生の事も、私は真剣に――」 「あのね、日野さん。 僕はけじめの話をしているんだよ」 「・・・けじめ」 「そう。 潔く辞退するか、金澤先生と別れて出場するか・・・選んでくれないかい?」 「・・・・・・・」 柚木の言いたい事は解る。 だが、香穂子にとってどちらも大切で到底選べるものではなかった。 答えられずに考えあぐねていると、柚木が香穂子の方へ歩を進めてきた。 どこか普段の柚木とは雰囲気が違う気がして、香穂子は反射的に後ずさる。 しかし、数歩の所で壁にぶつかり逃げ場を失った。 「・・・・俺はね、あまり気の長い方じゃないんだよ」 「柚木先輩・・・ッ!?」 突然柚木に腕を掴まれたかと思ったら、整った顔が接近してきた。 唇に何か温もりを感じ、それがキスだと気付いたのは舌が潜り込んで来てからだった。 香穂子は驚きのあまり目を大きく見張って、呆然と立ち尽くす。 至近距離で互いの視線がぶつかり、ふと我に返る。 「んんッ、んぅ・・・っいや!」 思い切り突き飛ばした筈なのに、柚木は少しもよろめかない。 外見の所為か華奢に見えても実際はしっかりとした男の身体だ。 女の力しかない香穂子では逃げ出す事さえ出来なかった。 「・・・どうして・・・こんなこと・・・っ」 「お前が悪いんだよ」 「え・・・?」 「俺に切っ掛けなんて与えるから・・・・」 香穂子を見据える柚木の琥珀色の瞳は、激しい感情を押し殺しているように見える。 それがひどく憎まれているように感じて香穂子は視線を逸らした。 「どちらも選べないと言うなら、もう一つ選択肢を増やしてやるよ」 そう言った柚木の表情はもう元に戻っていた。 しかし、まだ不穏な雰囲気を纏っている。 香穂子は緊張した面持ちで彼の言葉を聞く。 「お前が俺のオモチャになること」 「・・・・・はい?」 言われている意味がよく解らない。 思わず香穂子は聞き返してしまった。 「俺を楽しませてくれると言うなら、先生との事は口外しないし、コンクールも好きにすればいい」 「・・・・・・・・・・」 「悪い提案じゃないだろう。 決めるのはお前の自由だけどね」 耳元で密やかに囁かれる。 それはまるで、悪魔の囁き・・・・。 「・・・・それで本当に約束してくれるなら」 「勿論。 一度交わした約束を違いはしないさ」 「わかりました・・・先輩のオモチャに、なります・・・」 「交渉成立、だな」 そう言って、柚木の顔が再び近づく。 だが今度は避けることなく口付けを甘受した。 「忘れるなよ? 俺は強姦するんじゃない・・・・お前が、自分で選んだんだぜ」 立場を思い知らせるかのように、低い声がわざとゆっくりと囁かれる。 自分一人の問題ならば、まだ逃げ出せたのだが・・・・。 金澤の事まで口外されては彼が一番被害を受ける。 しかし、自分さえ我慢すれば彼も助かるのだ。 ――― 答えなど一つしかない。 香穂子は泣きそうになるのを唇を噛む事で堪えて・・・・小さく頷いた。 NEXT >> |