災い転じて福となる







「柚木サマっ! お口に合うかどうかは解りませんが・・・・受け取ってください!!」

「ズルイ!! 柚木くん、私のも食べてっ!!」

柚木は4限目が終了のチャイムと共に沢山の女生徒に囲まれていた。

いや、それは普段の光景なのだが今回は隣のクラスである3−A組が調理実習だったらしく

可愛くラッピングされたクッキーを次々に渡されていた。

その集団はハッキリ言うと『うざい』の一言に尽きるのだが、当の柚木は嫌な顔などせず、にこやかに感謝の言葉を言う。

「そんなに慌てなくても僕は逃げないから・・・・一人ずつ順番に、ね?」

正に天使の形容が相応しいその微笑みに、女生徒たちは一斉に黄色い悲鳴を上げる。

しかし、それはあくまで表の顔だ。

本当は直ぐにでも屋上へ向かって、香穂子と昼食をとりたい所だが、こうギャラリーが多いと身動きすらも困難だった。

ちやほやされるのは別に嫌いではないが、時と場合にもよる。

正直、どうしようかと考えていると後ろからやけに元気な声が聞こえた。

「お〜い、柚木ー!! ・・・って、うわ! 相変わらず凄い人だかりだね・・・・」

「やぁ、火原。 どうかしたの?」

柚木の親衛隊が苦手な火原はいつにも増している女の子たちに圧倒されていたが、柚木の声で我に返った。

「あ、そうそうっ! 屋上で香穂ちゃ・・・じゃなくって、えーと・・・そうっ! 金やんが柚木を待ってたよ!!」

今の状況で迂闊に香穂子の名前を出すと流石にマズイと彼も理解したのだろう。

あまり上手いとは言えない火原の必死な嘘にそっと苦笑して、フォローをさり気なく入れてやる。

「・・・・あぁ、金澤先生はヘビースモーカーだから今は校内に入れなくて、屋上なのかな?」

わざと独り言っぽく呟いてやると、それを聞いた火原は直ぐに相槌を打った。

「あっ、うん、そう!! 煙草吸ってた!!・・・何か、急ぎの用とか言ってたから早く行ったほうがいいよ!」

「そうだね、ありがとう火原。
 ・・・と言う訳で、用事が出来てしまったから悪いんだけど僕はここで失礼させて貰ってもいいかな?」

「えぇ、私たちは全然! こちらこそ、お引止めしてしまって済みません」

そうして、砂糖に群がる蟻のような集団から抜け出した柚木は去り際に、助けてくれた親友に対して小声でお礼を言う。

今度は表面上の感謝ではなく、本当に心の底からの気持ちで。

火原も笑顔でそれに応えて、『どういたしまして!』と小声で返す。

急いで屋上へと向かっていく柚木の背中を温かい瞳で見守りながら、そっと二人の恋を心の中で応援した。








**********








階段を逸る気持ちで登っていると、ふいにいつかの自分と今の自分が重なり苦笑する。

そして、あの時と同じように扉を開けるとちょうど香穂子もヴァイオリンを弾いていた。

「あ、意外と早かったですね」

香穂子は演奏する手を止めて、柚木に微笑みながら振り返った。

「ここへ来る前に火原先輩と会って、柚木先輩は親衛隊の人達に捕まっているって聞いたんです。
 それなら結構時間かかるかなって思って、ヴァイオリン持ってきちゃいました!」

「昼休みって言ってもそんなに長くはないんだし、教室で食べようとか思わなかったのか?」

「先輩なら来てくれるって信じてましたから!」

えへへ、と少し照れくさそうに笑う香穂子を見て自分まで恥ずかしくなってしまう。

「・・・・ふーん、おめでたい奴」

照れ隠しにそう言って、ベンチに腰を下ろした。

くすっと小さく笑って、香穂子も隣に腰を下ろす。

お弁当の包みを開けながら、香穂子は横目で大量のお菓子を見ながら尋ねた。

「・・・・そのクッキー、どうするんですか?」

「まぁ、一つくらいはここで食べるさ。 あとは・・・香穂子いる?」

先程の報復、とばかりに意地の悪い笑顔で嫌味を言う。

そこにはもう天使の面影は微塵もなく、香穂子だけに見せる素の柚木だった。

「他の女の子が先輩の為に作ったお菓子なんて要りませんっ!」

香穂子は怒ってつんっとそっぽを向いた。

少しは嫉妬してくれていた事を嬉しく感じるのと同時に、可愛さ余って更に虐めたくなる。

「そう? 残念だな・・・折角の善意だったのに」

「どこがですかッ!?」

余計に喚く香穂子を面白そうに眺めながら、貰ったクッキーの中で一番綺麗にラッピングしてあるものを選んで包みを開ける。

焼き具合もそれほど悪くはなく、一枚つまんで口の中に入れた。

「・・・・・っ!?」

「・・・先輩?」

クッキーを一口食べてから微動だにしない柚木を不審に思って、香穂子は恐る恐る声をかけた。

「・・・ぅ・・・っ、まず・・・・!」

そう言って口に手を当てたまま蹲る柚木を見て、一層慌てた。

「先輩っ! 大丈夫ですか!?」

みるみる顔色が青ざめていって、香穂子は急いでお茶を渡そうとしたが、柚木はそのまま倒れてしまった。

「やだ・・・っ!! 先輩・・・・柚木先輩っ!!」

柚木は必死に縋りついて泣きそうな香穂子を見て、気を保とうとするけれどそれ以上に頭が痛くて、身体も重くて動けない。

傍で泣き叫んでいる香穂子の声も徐々に遠ざかっていった。













「・・・う・・・・ん・・・」

目をゆっくり開けると、白い天井と二人の顔が見えた。

「先輩・・・! 良かったぁ・・・」

段々視界もはっきりしてきて、目の前にいるのは香穂子と保健室の養護教員だというのが解った。

「柚木くん、ここは保健室よ。 状況は解るかしら?」

「ええ・・・一応は・・・」

まだクラクラする頭を抑えて、何とか答える。

「そう、良かったわ。 病状は軽度の食あたりだから、暫く寝ていると頭痛も収まると思うわよ」

「すみません、ご迷惑をお掛けしてしまって・・・・」

「あら、全然迷惑なんかじゃないわよ。 むしろ、柚木くんの介抱が出来て嬉しいくらいだわ」

「先生!」

頬を少し赤らめて言う先生に対して、香穂子は怒気を含めて咎めた。

「やぁね、冗談よ! 日野さんったら本気で怒っちゃって、可愛いわねぇ」

そう言って、ころころと笑う先生を横目で睨んで「もういいです」と不貞腐れる。

「ふふ、先生・・・・彼女で遊ぶのはその辺で勘弁してあげて下さい」

柚木の穏やかな声に先生も小さく笑って頷いた。

「そうね、これ以上いじめちゃ可哀想だものね。
 さて、私は仕事がまだあるからここを外さないといけないのだけど、柚木くんはまだ安静にしてなさい。
 鍵はここに置いていくから、最後は戸締りお願いね」

「はい、解りました」

にっこりと綺麗な笑顔で見送り、足音が遠ざかって行くのを確認すると、天使の顔から不機嫌な顔に急変する。

「やれやれ・・・今日は本当に厄日だぜ」

香穂子も初めはともかく、今はもうこの豹変ぶりに驚きなどしない。

「先輩、気分はどうですか? 遠慮せずに言って下さいね、何でもしますから!」

「ふぅん? 何でも、ねぇ・・・」

ニヤリと悪辣に笑う柚木に危険を感じた香穂子は慌てて逃げようとしたが、腕を捕らえられてしまった。

「あの味がまだ残っているから口直しさせろよ」

そう言って柚木は強引に香穂子の唇を奪う。

「んっ・・・んんっ・・・!」

驚いて逃げる腰に腕を回して更に密着させ、口付けも舌を絡めて徐々に深くなる。

二人分の体重が乗ってベッドの軋む音が室内に響く。

「ん・・・ぅ・・・っ」

香穂子が苦しげな息をつくと、ようやく柚木は唇を開放した。

ゆっくりと唇を離せば、どちらのものともつかぬ銀の糸が二人を繋ぐ。

「なっ・・・何するんですか!」

「何って口直し。 まだ足りないからお前ごと貰うよ」

ベッドの上に膝立ちという不安定な状態から更に腕を引かれ、柚木の下に組み敷かれた。

「だめっ・・・ここ、学校ですよ!?」

腕を突っ張って柚木の身体を押し返そうとするけれど、柚木の手がスカートの中に忍び込んだ。

「あっ・・・!」

「本当にダメ・・・? じゃあ、ココは何で濡れているの?」

クスクスと楽しそうに笑いながら意地悪な顔で香穂子に聞き返した。

柚木の指が下着の上から花芽をなぞられて、もどかしさに身を捩る。

「あ・・・っ、はぁ・・・ん・・・」

その反応に気を良くした柚木は、上下の制服も手早く脱がせて背中のホックも片手で器用に外してしまう。

露になった胸の頂きを口に含んで、歯で軽く噛み、その後は舌で転がすように優しく舐める。

それは気持ち良過ぎて、香穂子は声も制御できずに感じていた。

「ああぁっ、お・・・ねが・・・・もうダメぇ・・・!」

「もう? 本当に感じやすい身体だね、香穂子」

柚木は最後の一枚を脱がすと、直に花芽を探り当てて更に激しく指を動かす。

「ふぁ・・・んんんんんぅっ・・・」

流石に音量の大きい香穂子の声を制するために柚木が空いている手で口を塞いだ。

ピンと張っていた身体をゆっくりと弛緩させて荒い息をつく。

「・・・柚木・・・・せんぱい・・・」

「何かな? 日野さん」

急に王子様モードな口調に呼び方を『香穂子』から『日野さん』と呼ぶ柚木に対して少しだけ非難の声を上げる。

「やっ・・・どうして?」

「名前で呼ばれたかったら、お前も俺のこと名前で呼べよ」

唐突にそんな事を言われても、準備など出来ていないので口篭っていると柚木はあからさまな溜め息を吐いた。

「別に僕はどちらでも構わないんだよ。 ただし、ずっとこの態度で接するけれどね」

そう言って、にっこりと微笑む柚木の目は全く笑ってなどいなかった。

そればかりか、軽い脅しまでかけてくる。

香穂子は彼の機嫌をこれ以上損ねないように、意を決してポツリと柚木の名前を呟いた。

しかし、聞こえるか聞こえないかの音量で柚木が満足するはずもなく・・・・。

香穂子が勇気を振り絞ったのに対して何の賞賛もせずに、それ所か『聞こえない』の一言で一蹴された。

少し悔しくなって今度は大きな声でハッキリと言った。

「梓馬っ!!」

顔を真っ赤にして叫んでいるのが面白かったのか、柚木は肩を揺すって笑う。

「くっ・・・はは、本当にお前の反応は可愛いね」

そう言って尚も笑い続ける柚木の機嫌は直ったらしいが、今度は香穂子が不愉快になってくる。

「もう知りません!」

ふい、と顔を背けると柚木の手がそれを許さないとでも言うように正面を向かせた。

キッと睨みつけたら甘い表情をした柚木の瞳とぶつかってしまい、不覚にも胸の鼓動が高鳴る。

それを知ってか知らずか、クスッと小さく笑う声が聞こえた。

「よく出来たご褒美だよ・・・」

香穂子の前髪を指先で梳いて、額に優しい口づけを落とす。

軽く微笑んだ柚木の顔は、先程の計算して作った表情などではなく、香穂子だけに見せる特別な素の笑顔。

けれど、そんな顔をしている本人でさえもきっと自覚はしていないのだろう。

だからそれは香穂子一人だけの秘密だった。

柚木はそっと香穂子の足を開いて身体を滑り込ませる。

達したばかりで蜜が溢れているそこに柚木の熱い昂ぶりが宛がわれた。

「ひゃ・・・っ」

「いくよ・・・」

柚木も欲情しているのか、語尾が微妙に掠れていて普段にも増して艶がある。

ぐっと腰を進めれば、つぷりと先端が入った。

「ん、あぁ・・・っ」

進入してくる熱に応えるようにきゅっと締め付けて悦びを表す。

やはりキツイのか僅かに呻いて、眉を寄せる柚木の表情は女である香穂子から見ても色っぽいと思う。

「梓・・・馬・・・」

柚木の首筋に腕を絡めると、柚木もぎゅっと香穂子を抱き締める。

香穂子の身体になるべく負担を掛けないようにゆっくりと押し入り、やがて全て入った。

繋がっても直ぐに動こうとはせずに、香穂子の身体が柚木の体積に慣れるまで抱き合いながら待つ。

男の人にとって待つのがどんなに辛い事か知識で知っていたので、柚木のその配慮にはいつも心を打たれる。

「大丈夫だから・・・・来て?」

柚木も悟ったのか、小さく頷くとゆっくり動き始めた。

「あっ・・・ああぁっ」

柚木自身が出入りするたび、香穂子のいい所に刺激が来る。

びくびくと身体を震わせながら甘い嬌声を上げる香穂子に、柚木も溺れていく。

絶える事のない水音・・・・・・。

絡まる指と吐息・・・・・・・・・。

互いが互いを求め合って、重なる身体・・・・・・・・・。

「あず、まぁ・・・っ、ぁっ、も、ダメ・・・!」

締め付けが一層きつくなって限界が近いのだと訴える。

「・・・くっ、香穂子!」

柚木も限界が近く、次第に動きも激しくなっていく。

「あっ、やぁ、んぅ・・・っ、あぁあああ・・・!」

香穂子はぐっと身体を弓なりに反らして再びイッた。

柚木もその強い締め付けで香穂子の中に欲望を放つ。

「う、あ・・・っ」

ビクンと身体を弾ませて、欲望を受け止めた香穂子は徐々にその意識を飛ばしていった。





**********





その後、香穂子が目を覚ました時にはとっくに下校時刻を過ぎて外は暗かった。

「・・・ほら、いつまでも拗ねてないで服ぐらい着ろよ」

既に制服を着終わった柚木は、一縷も身に纏わず不貞腐れている香穂子を見て溜め息をつく。

「先輩が脱がしたくせに」

柚木に背を向けて香穂子は頭までシーツを被った。

「・・・・信じられない。 こんな遅くなって、しかも今まで先輩と・・・・っ!」

この先は恥ずかしくて、とてもじゃないが言えない。

「だから、お前の両親には俺が謝っておくから。 いつまでもここに居ても仕方ないだろ?」

「そういう問題じゃありませんっ」

ますます頑なになる香穂子に柚木も段々イラついてきたが、ある事を思いついて口角を上げた。

「・・・解った。 明日は俺が全ての責任を取ってやるよ」

「どういう意味ですか?」

柚木の言っている意味を図りかねて香穂子はようやくシーツから顔を出して振り向く。

「そのままの意味だよ。 ただし、香穂子は今夜家には帰らず俺と外泊だけどな」

「はぁ!?」

柚木は手早く香穂子に制服を着させて、横抱きにして軽がると抱き上げた。

「ちょ・・・っ! どこに行くんですかッ!?」

「学校の近くにウチが取り仕切っているシティホテルがあるから、そこに行くんだよ。
 ラブホテルなんてムードの欠片もない所は好きじゃないからね・・・・」

一人で納得している柚木に何を言っても通じない、と経験から理解している香穂子の選択肢は諦めるしかなかった。

そして、学校に居る間は柚木の誘いに乗らないという何とも希望薄い誓いを立てるのだった。











********

★あとがき★

何だ、コレ!?(お前が言うな)
ギャグなんだか、甘いんだか・・・・よく解らん;
まぁ、一つ確実に言えるのは『酷い出来』という事のみ。(いつもじゃん)
そして、作者自身も気になる事は・・・・・。
柚木さん元気じゃんッッ!!!
そして、最後はお持ち帰り・・・・・・。
ウチの柚木さんはパワフルですな・・・。(遠い目/殴)
皆さんの柚木さん像を壊しちゃったらスミマセン!!(これが言いたかった)


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