プレゼント
「・・・柚木先輩、一体どこに向かっているんですか?」
週末の日曜日、香穂子は柚木の車に乗せられて、行き先も聞かされぬまま・・・・今に至る。
「あれ、言わなかったか?」
「聞いてませんよ!」
忘れていたのか・・・と、少し呆れた眼差しを送っても柚木は 『悪かったな』
と、さして悪びれもせずに口先で謝った。
彼のそんな態度は日常茶飯事なので、香穂子もいちいち気にしない事にしている。
「銀座だよ。 ちょっと買い物にね」
「・・・・・」
同じ高校生なのに、『ちょっと買い物』 が銀座・・・・・。
万年金欠の香穂子とはやはり次元が違う。
こういう時、一般人とそうでない違いを改めて自覚してしまい・・・・少し、柚木が遠く感じる。
けれど、柚木の次の発言で香穂子はそんな哀愁めいた感情など一気に霧散してしまった。
「この前、妹の買い物に付き合った時、お前に似合いそうな服を幾つか見掛けたから・・・それを買おうと思って」
「――― は!? 私の買い物ですかっ!?」
「ああ、そう言ってるだろ」
さも当然のように頷かれ、香穂子は更に焦る。
「そんな大金持ってませんよ!」
つい先日、4千円の値札を見て欲しかったワンピースを諦めたばかりなのだ。
そんな自分に銀座の・・・それも、柚木が選んだという服に手が届くはずもない。
断ろうと思ったのだが、再び我が耳を疑う言葉が柚木から発せられた。
「・・・・今、なんて?」
「だから俺が買うって言っただろ。 何度も言わせるな」
香穂子は 『ダメです!』 と口を開きかけた所で車は静かに停止する。
「梓馬様、日野様。 ご到着致しました」
運転手が恭しく扉を開き、先に柚木が車から降りた。
「ほら、早く出ろ」
そう言って差し伸べられた手を香穂子は取る他ない・・・・。
***************
「お待ちしておりました、柚木様」
店に入った途端ここのオーナーらしき男性が頭を下げ早速別室に案内された。
ソファーを勧められ、紅茶まで出された香穂子は驚きすぎて言葉も出ない。
「・・・・。 凄い扱いですね・・・」
「そうか? まぁ、この店は割と利用するしな」
柚木は別段なんでもない風に出された紅茶に口を付ける。
未知の領域に足を踏み入れてしまった香穂子は絶句するしかない・・・・。
丁度その時、目の前の扉が控えめにノックされて、数人の女性店員と先程のオーナーが現れた。
「柚木様、大変お待たせ致しました。 こちらは当店自慢の新作で御座います」
そう言われ紹介される服の数は数百点を確実に越えている・・・・。
圧倒され立ち尽くすばかりの香穂子とは違い、柚木は早速数枚の服をセレクトしていた。
「香穂子、もっと近くにおいで」
呆然としていたら腕を引っ張られ洋服を宛がわれる。
「・・・うん、俺の思った通りだね。 この服は香穂子の髪によく映える」
「ええ、とても素敵です! ご試着も出来ますが、どうされますか?」
「よろしく頼むよ」
「畏まりました。 ではお客様、どうぞ此方に・・・・」
「えっ・・・ちょ・・・!」
途中でハッと我に返った香穂子だが、抵抗もままならぬまま女性店員に促され試着室へと姿を消した・・・・。
パタン、と扉が完全に閉まると柚木は再びオーナーに向き直る。
「これで会計してしまうから、後は人を下げてもらえるかい?」
「はい、有難う御座いました。 それでは、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
オーナーと店員は柚木に対して恭しい態度で一礼すると静かに退室していった。
それから数分もしない内に部屋の扉が開いて、服を試着した香穂子が出てきた。
「良いじゃないか。 とても似合うよ」
柚木の言葉に頬を一瞬だけ染めた香穂子はそれを振り切るかのように首を振る。
「先輩っ、本当に困りますって・・・!」
「何が?」
「何って・・・こんなに高価な服頂けませんよ・・・」
試着をしてこんな事を言うのは多少気が引けるのだが、やはり香穂子はどうしても素直に受け取る事が出来なかった。
普段から充分すぎるくらい柚木にはお世話になりっぱなしなのに、その上プレゼントまでされてはお礼の返しようもない。
それに、この値段だって香穂子がいくら逆立ちをしても出せる金額ではないのだ。
柚木とはいつでも対等で在りたい香穂子にとって、これは割りに合わない。
香穂子が申し訳なさそうに俯くと、柚木は暫し沈黙したあとで大きな溜め息を吐いた。
「・・・・・解ったよ」
呟く柚木に香穂子はパッと顔を上げる。
「じゃあ・・・!」
期待した声をあげて瞳が合った瞬間、何故か彼はニヤリと笑う。
その笑顔に何だか黒いものを感じて香穂子は後ずさると、柚木は試着部屋に足を踏み入れた。
「不本意だけどお前がそこまで気にするなら、ちゃんと洋服代を支払ってもらおうか・・・・」
「だから、そんな大金ありませんし洋服は・・・・」
「ああ、お金の心配ならしなくても良いよ」
香穂子の言葉を遮った柚木は後ろ手で扉を閉めて、ご丁寧に鍵まで内から掛ける。
完全に密室となった部屋には香穂子と柚木の二人だけ・・・・・。
そのまま後ろへと下がり続けたが、トン・・・と背に何かが当たった。
見ると壁一面に埋め込まれた鏡があり、前を向くとそこには柚木が目の前に立っている。
まさにサンドイッチ状態の香穂子は身動きが取れずにいると、彼はクスリと小さく微笑んだ。
香穂子の顎を掬うように持ち上げて、唇に口付ける。
いきなりの行動に驚き必死に柚木を退かそうと胸を押し退けるが、反対にその腕を鏡に縫い止められてしまった。
「・・・ん・・・んんっ・・・」
ぬめった舌がねっとりと絡みつき、香穂子は思わず身体をピクリと反応させる。
それに気を良くした柚木も更に口付けを深いものへと変えた。
「ん・・・ふぅ・・・っ」
ぴちゃ・・・という艶めかしい音に煽られて、喘ぎともつかぬ吐息が香穂子から零れる。
巧みなキスに翻弄されている香穂子は柚木の手が背に回った事など気付きもしなかった。
ジーッというファスナーを下げる音で漸く気付いたが、一瞬遅く・・・・ワンピース型の洋服はストンと足元に落ちた。
「んんっ、ん――― っ!!」
香穂子の抵抗が激しくなったので柚木は名残惜しげに口付けを解く。
「な、何してるんですか・・・っ!」
「何ってお前が望んだんだろ。 洋服の代金を身体で支払って貰うんだよ」
「聞いてませんっ!」
「それが嫌なら現金でもいいぜ? 4万9500円、今すぐ払えるならな」
「・・・うっ・・・」
約5万相当のお金など一般の高校生にしか過ぎない香穂子が出せる筈もない。
悔しくて睨み付けると柚木はフンと鼻で笑う。
「素直に貰っとけば良かったのにね・・・?
まぁ、結果としては変わらないか。 お前は男が女性に洋服を贈る意味を知っている?」
「いえ・・・」
素直に首を横に振れば、彼は意味深に微笑んで耳元でそっと囁く。
「・・・・その服を脱がせたいって意味だよ」
「――― なッ!?」
耳まで真っ赤にして柚木を見上げると今度は首筋に唇を落とされる。
チリッとした痛みに眉をしかめたら突然身体を反対に向かされた。
目の前の鏡には下着姿の自分と、その腰に手を回した柚木の姿が映っている・・・・。
慌てて視線を逸らしたら、再び目線を強引に元へ戻された。
「瞳を逸らしたらダメだよ。 俺がいつもどんな風にお前を抱いているか・・・見ててごらん?」
鏡の中で柚木と瞳が合ったまま背中のホックを外される。
肩からスルリと紐を落とされ、ブラも足元に落ちた。
「やだ・・・!」
咄嗟に隠そうとした両手を退かされて、柚木の温かい手が柔らかな胸を包み込む。
「ん、ぅ・・・」
「香穂子はこうされるのが好きなんだよね・・・?」
低い声で甘く囁き、既に自己主張している尖りをキュッと指先で摘まんだ。
「・・・・あんっ!」
途端に香穂子は一際大きな声で啼いてビクンと身を震わせた。
あまりの羞恥に泣き出しそうな香穂子の表情を見て、柚木の嗜虐欲は更に膨らむ。
「そんなに大きな声を出すと、店員の誰かに気付かれるかもな・・・」
「・・・・っ!」
慌てて口を塞いだ香穂子の視線は不安そうに揺らぐ。
だけど、柚木はわざと声を抑えきれない程の快感を彼女に与える。
「・・・やっ、あぁ・・・っは・・・っ・・・」
もう立っていられないのか膝がガクガクと震えていた。
そのまましゃがみ込みそうな香穂子の足を割り、柚木は自分の膝を間に捻じ込む。
「まだ胸しか触っていないのに凄い乱れようだね・・・。 もしかして鏡を見て感じてる?」
「ちが・・・っ」
「・・・じゃあ、ココは何でもうこんなにトロトロなのかな?」
「や、知らな・・・・んあっ!」
下着の上から花芽を膝頭でグリッと押し潰す。
「素直に言わないとこのまま達してしまうよ?」
「――――・・・っ」
未だ強い刺激を送り続けている柚木は、香穂子が言うまでその苛みを止めようとはしない。
とうとう耐え切れなくなった香穂子は鏡に映る柚木を見つめて白状した。
「・・・鏡が・・・ある、から・・・・」
おずおずと顔を紅くして答える香穂子に笑みを浮かべるが、柚木はまだ許さない。
更にグリッと膝を突き上げながら耳を甘く噛む。
「・・・あるから、香穂子はどうしたの?」
「・・・っ・・・余計に、感じるの・・・!」
「ふふ、大変よく出来ました。 手を鏡に付いて」
香穂子は言われた通りにすると、柚木も手早く最後の下着を脱がせ窮屈なズボンから自身を取り出した。
「・・・・いくよ?」
言葉と同時にグッと香穂子の中に挿れる。
「あああぁ・・・っ!」
立ったまま、柚木の身体が覆い被さった挿入は普段より奥に入り、その熱を直に感じてしまう。
殊更ゆっくりと進退を繰り返され、その度に淫靡な水音がぐちゅぐちゅと室内に満ちる。
「見て、すごい溢れている・・・」
香穂子は自分の腿を伝う蜜を鏡越しに指摘されて、居たたまれない気持ちになった。
視線を逸らしたいのに、柚木の琥珀色の瞳に甘く囚われて逸らせない。
自分の卑猥な姿を見ながら緩く突き上げられるのは香穂子にとって拷問に近かった。
ずるずると下に崩れていく香穂子の上体を柚木は腕で支えて耳元で密やかに囁く。
「腰、揺れてるよ」
「・・・・・・っ」
気付いても止める術がない香穂子の頬は羞恥で一気に紅潮する。
「もっと強くして欲しいか?」
その問いかけに香穂子はコクコクと頷いた。
「・・・し・・・て・・・ッ」
後ろを振り向いて懇願を口にすると、柚木は香穂子の額にチュッと口付けを落とす。
「・・・可愛いね。 いいよ、してあげる」
そう言って優しい笑みを浮かべ、一旦ズルリと自身を引き抜いた。
全て抜け切る前に柚木は再びそれを勢い良く押し込む。
「――― あぁっ!」
最奥を抉られ、香穂子は背を仰け反らせた。
先程までとは違って腰にズンッ、ズンッ、と来る大きな刺激が心地よい・・・・。
「ふぁあ・・・も、もうっ・・・」
達しそうになって無意識にキュッと中の楔を締め付けると、柚木も余裕なさげに呻いた。
「・・・くっ・・・そうだね、同時にイこうか・・・っ」
更に律動する速さが増し、もう何も考えられない。
「あっ、あっ・・・ああァ――――・・・ッ!」
頭の中で白い閃光が弾けて香穂子は身体をぐったりと弛緩させた。
――― コンコン。
扉が控えめにノックされ、オーナーが再び顔を出した。
「お荷物のご用意が整いました。 店の外までお運び致します」
「ああ、有難う。 ・・・ほら、香穂子。 俺に掴まって」
すっかり腰が立たなくなってしまった香穂子は恨めしげに柚木を睨む。
けれど、そんな態度を意にも介さず柚木は上機嫌に香穂子の腰を支えながら立ち上がった。
「お客様、どうかなさいましたか・・・?」
「あっ、いえ・・・その・・・」
「彼女は少し身体が弱くてね。 軽い貧血を起こしてしまったんだよ」
返答に困った香穂子をフォローするように柚木が言葉を遮る。
ない事をしゃあしゃあと言ってのける彼の二枚舌っぷりに感謝を通り越して呆れた・・・・。
オーナーはそれを信じた様子で、気遣わしげに香穂子を見る。
「そうですか・・・別室をご用意致しますので少し横になられますか?」
「いえっ、もう大丈夫です・・・!」
慌てて香穂子は首を横に振る。
挙動不審なその態度に怪訝な顔をしたけれど、直ぐにオーナーは元のにこやかな表情に戻った。
「では、外までお見送り致しますね。 どうぞ此方に」
そう言って扉が開かれると柚木は香穂子を促して歩を進める。
店の外には既に車が到着していて、運転手は店員から荷物を預かりトランクの中へそれを仕舞った。
香穂子たちも車の後部座席に乗り込み、扉がパタンと閉まる。
漸く他の人たちの目がなくなった所で香穂子はキッと柚木を睨んだ。
「お店の中であんな事するなんて、信じられませんっ!」
「・・・・満更でもなかったクセに」
香穂子の非難の言葉は、柚木にフンと鼻で笑われ一蹴される。
口で彼に一度も勝てた事がない香穂子は、この言い争いの不毛さに気付いて渋々口を噤む。
だが、その沈黙を柚木はどの様に解釈したのか・・・・にっこりと上機嫌な笑みを浮かべた。
「じゃあ、もう一件別の店に行こうか。 今度こそ俺が買ってあげるからね」
「柚木先輩っ!!」
「大丈夫。 お礼はちゃんとして貰うから、遠慮しなくていいよ」
「そういう問題じゃありませんっ!」
香穂子は半ば泣き出したい心境で柚木に訴える。
けれど、彼はそれを軽く聞き流して運転手に次の場所を告げていた・・・・。
この日、香穂子は柚木の辞書に 『無償の愛』 など無い・・・という事実を身を以って体験する羽目となってしまった。
***************
★あとがき★
・・・何と申しますか・・・相変わらずの出来栄え(汗)
そして、終わりが非常に困りました。
うーん、不完全燃焼だ・・・。