とある休日、柚木は香穂子の家へ来ていた。 そして香穂子も嬉々として柚木を部屋へ招き入れる。

それは然程めずらしくもない、今となっては日常と化した二人の休日スタイルだった。

しかし、普段と唯一違うのは・・・・・・。



「ユズー。 ユズ、おいで〜」


香穂子の弾んだ声を聞き、一匹のゴールデン・レトリーバーの仔犬は嬉しそうにトテトテと駆け寄った。




「その犬は・・・・」

「はい、先輩がプレゼントしてくれた犬ですよ。 名前は 『ユズ』 にしました!」

「ユズ?」

「ええ、毛の色が微妙に柚色でしょう。 だから、それに因んで」




半ば焦りながら説明する香穂子の言う通り、本当に微妙だ。

力説されるも、いまいち説得力に欠ける。




「そう言えばユズって・・・」




柚木がわざとらしく、さも今思い出した風に言えば香穂子の肩がギクリと強張った。

蒼くなったと思えば今度は朱色に頬を染める彼女の百面相が楽しい。

その反応だけで、この犬の名の由来など直ぐにピンときてしまうのに・・・・。

だけど、香穂子の慌てている様子が面白くて、的外れな答えを言ってはつい彼女で遊んでしまう。




「某ユニット歌手もそんな名前だったよな。 お前、そんなに好きなのか?」

「違いますッ!! わざわざ犬の名前に歌手名なんか付けません!」

「そう? じゃあ・・・・」

「柚木先輩っ!」

「なに?」

「・・・っ・・・本当は、解ってるくせに・・・!」




とうとう拗ねてしまった恋人に、柚木も笑いが堪えられなくなった。

思い切り笑い出した柚木に香穂子は、ますますムッとした表情になる。

柚木は眦に溜まった涙を拭いながら、幼子をあやすようにポンポンと香穂子の頭を撫でた。




「悪い悪い。 香穂子は俺の事が好きで好きで、どうしようもないんだよな」

「・・・別にそこまで言ってません」




ふいっと顔を背けられ、頭を撫で続ける手を振り払われても柚木は変わらず笑顔だった。

香穂子自身は不貞腐れていても、『ユズ』 を介してきちんと愛を感じられたから。

しかし、その数時間後に 『犬をやって良かった』 という気持ちが反転するなど考えもしなかった―――。















     














そもそも、柚木が香穂子に仔犬をプレゼントしようなどと思ったのにはそれなりの理由があった。

もう直ぐ香穂子の誕生日。

何か贈り物をしたいものの、実際は何をあげたら良いものか悩んでいた。

元々香穂子は物に執着がある方ではないし、柚木も女性に贈り物した経験はあるがいつも無難なもので適当に決めていた。

だから余計に困惑していたのだが、ふと聞き覚えのある声に足が止まる。




「ねぇ、沙織の犬の名前って何て言ったっけ?」

「ジョンだよ」

「すっごい可愛かった! 私も犬が飼いたくなっちゃったなぁ・・・」

「飼えば? 香穂、もう直ぐ誕生日なんだし親に頼んでみれば良いじゃない」

「それは無理。 もう別に欲しいものを頼んじゃっているから」

「そっかぁ・・・残念だね」

「あー、でも犬かー・・・いいなぁ・・・」




諦めの付かないその口調は、間違いなく恋人である香穂子のもの。

そして、その二つの声は次第に離れていく。

完全に聞こえなくなっても柚木はその場を動こうとはせず、ただ黙って考えていた。

そして、おもむろに携帯電話を取り出してこの日はフルートの練習もせずに早々と正門前へ向かう。

歩きながら香穂子に今日は一緒に帰れない事をメールで伝え、迎えに来た車に乗り込んだ。




「今日はお早いご帰宅なのですね。 ・・・おや、梓馬様お一人で御座いますか?」

「ああ、少し寄りたい場所があってね。 ペットショップへ向かってくれ」

「・・・・は?」

「だからペットショップ」




運転手に思い切り怪訝な顔をされ、柚木は少しバツが悪そうに視線を逸らす。

その様子で全てを察した彼はクスッと小さく微笑んだ。




「日野様も、きっと喜ばれますよ」

「・・・・・だと良いけどな」




そして、その後は柚木の期待通り香穂子は喜んで仔犬を受け取った。

幸いな事に家族からの反対もなく、今では日野家のアイドルと言っても過言ではない程に可愛がられている。

特に香穂子の執着ぶりは凄い。 『溺愛』 という言葉がまさに相応しい。



しかし、それは柚木にとって大きな誤算だった。



ユズをプレゼントしてからというもの、毎日の登下校時の話題がユズで持ちきりなのは、まだ許せる。

だが、たまの休日に二人きりで過ごす時間まで香穂子がユズに構いっきりなのが気に入らない。

話しかけても曖昧な相槌で流され、柚木はただ楽しそうにユズと遊ぶ香穂子を見ているだけ・・・・・。

初めは仕方ないと譲歩して読書していた柚木も、とうとう我慢の限界がきた。


読んでいた本を元に戻し、さり気なく香穂子の後ろへ回る。

それでも気付かない香穂子に柚木の苛立ちが更に増す。




「・・・香穂子」

「はい?」




名前を呼んで漸く振り向いた香穂子は、柚木とのあまりの近さに驚いて一瞬息を飲んだ。

その反応でまた不快になり、今度は何も言わずに唇を奪う。

香穂子は突然の行動に目を見張ったが、そのまま柚木に身を委ねる。




「んっ・・・んん・・・」




ぴちゃり・・・と、静かな室内に水音が響くなか柚木はそっと瞼を上げた。

目の前には頬を僅かに上気させ、必死になって自分の舌に応えている香穂子・・・・。

その扇情的とも言える表情を普段ならば愛しいと感じるのに、今回はやはり不満が勝っていた。

不意に泣かせてみたい衝動に駆られ、柚木は何の前触れもなく香穂子の舌に歯を立てた。



「ぃ・・・っ」



香穂子は小さな悲鳴を上げ、反射的に身を離した。

そんなに強くは噛まれなかったものの唐突な痛みに驚いて、その瞳からはボロボロと大粒の涙が零れている。

口元を手で抑えながら、目の前に居る加害者を睨み付けた。




「いきなり何するんですか!」

「ムカつくんだよ、お前。 だからその腹癒せ」

「なっ・・・」




いくら柚木の理不尽な物言いには慣れているとは言え、謝罪の言葉もない上に逆に罵られては流石に腹も立つ。

しかし、香穂子が何かを言う前に柚木が先に口を開いた。




「だいたい俺はお前の何? 唯の財布代わり?」

「・・・え? 何言って・・・・」

「その犬さえ居ればお前はそれで満足なんだろう」

「ユズが・・・・?」




香穂子は隣で大人しく座っているユズを見て、ハッと気付いた。

柚木の存在を忘れていた訳ではなかったが、先程まで浮かれてユズと遊び、周りが見えていなかったのは事実だった。

そんな香穂子を見て柚木がどう思うかぐらい少し考えれば解ったのに・・・・。




「・・・あ、私・・・」

「じゃあな、後は好きにしろよ」

「待って!」




背を向けられた瞬間、身体は勝手に動いていた。

無理矢理こちらに振り向かせ、背伸びをして唇を重ね合わせる。

拒絶されない事に安堵したのも束の間、彼から返ってきた言葉は冷ややかだった。




「・・・これは何の真似?」

「・・・・・・」

「まさかあれで俺のご機嫌でも取った積もり?」

「違います! 違うけど・・・・私が、悪かったから・・・・」

「反省したっていうわけ?」




コクン、と小さく頷く。

お互いに無言の沈黙が痛い。

そして、それを先に柚木が破った。




「じゃあ、それを証明してみろよ。 今直ぐ、ここで」

「どうやって・・・?」

「もちろん身体で」




柚木の言葉を聞いて固まる。

それはここで服を脱げと言っているのだろうか・・・・?

グルグルと色んな考えが交差してとりあえず服のボタンに手を掛けたものの、それを外せずにいた。

暫くそうしたまま困惑していたら、柚木は突然吹き出して笑い出す。




「ははははっ・・・お前、すっげー間抜け面・・・!」

「・・・っ、からかったんですか!?」

「いや。 怒ってるのも本当だし、さっき言った事も本気だぜ」




そう言われても、昼間の明るい部屋で自分から服を脱げる訳がない。

また同じ姿勢で俯くと、見かねた柚木がそっと耳打ちをした。




「脱がないなら、このままするよ?」

「だ、だめっ」

「じゃあ、早く脱いで」




促されて香穂子は観念し、のろのろと手を動かす。

しかし、前のボタンを全て外したところで手はストップした。




「やっぱり・・・・・」


無理です、と瞳で訴えると意外にも柚木はあっさりと頷いた。

ホッと胸を撫で下ろしたのは一瞬で、後ろにあったベッドの上に突き飛ばされる。

起き上がる前に柚木が覆い被さってきたので身動きも取れない。




「大人しく言う事を聞いていれば服が汚れないで済んだのにね」

「今日はダメですってば・・・・!」

「これは証明する為なんだから、お前に拒否権なんてある訳ないだろ」

「でも・・・っ」

「うるさいよ」




押し退けようとする香穂子の両手を頭上にまとめて押さえつけ、抗議する唇はキスで塞いだ。

余っている片手で、柚木は太腿を優しく撫でる。

スカートが上に捲りあがって香穂子はビクリと肌を震わせた。

その反応に気を良くした柚木はねっとりと舌を絡ませ合いながら、何度も手を往復させる。




「・・・んん・・・は、ぁ・・・・・ん・・・・っ」




いつしか香穂子の声は甘い喘ぎに変わり、口角から零れた二人分の雫を舐め取ってまた口付ける。

長くて深いキスが終わる頃にはもう反抗する力もなく、とろんとした瞳で柚木を見つめるだけだった。




「そんなに気持ち良かった?」




笑い混じりに聞いてみれば香穂子はハッとした表情で大きく首を横に振る。

けれど、いくら否定したとしても身体は素直なのを柚木は知っていた。

わざとらしくゆっくり太腿からその付け根へと手を移動させる。

ツルツルとした布の感触とは別に、中心部はじっとりと湿っていた。




「・・・あっ」

「嘘吐きだね。 下着をこんなに濡らして感じてたクセに・・・・」

「やっ、違う・・・」

「違わないだろう? キスだけでこうなるなんて、いやらしいヤツ」




柚木は言葉で香穂子を追いつめながら、手は下着の上から花芽を弄る。

時折指で摘まむとビクンとした大きな反応があり、下着の機能を果たさないほど蜜が染み出てきた。

柚木はその布の端を引っ張って足首の辺りまで下げる。

そして直接そこに触れた。




「見て。 ちょっと指先で掬っただけで、こんなに滴るぜ」




雫が指を伝う様を見せると香穂子は頬を紅潮させ、ふいっと顔を背けてしまう。

その態度がどんなに柚木の嗜虐心を煽るか、香穂子は未だ気付いてはいない。




「ほら、全部香穂子のなんだからお前が綺麗にして」

「・・・んぅっ」




背けられた顔を正面に戻して、柚木は蜜に濡れた二本の指を香穂子の口内へ入れた。

奥に逃げようとする舌を指で弄び犯す。

やがておずおずと自ら絡んでくるのを感じると柚木はわざと指を抜いた。




「美味しかった?」




にっこりと笑顔を向ければ香穂子にキッと睨まれる。

しかし、その眦にはうっすらと涙が溜まっているため効果は全くない。


その時、突然香穂子が甘い悲鳴をあげた。

まだ何もしていない柚木は不審げに首を傾げる。




「足っ・・・舐め・・・やだぁっ・・・」

「・・・・足?」




振り返って見ればユズがペロペロと足の指の隙間を舐めていた。

柚木は一瞬驚きはしたものの、何かを考える仕草をしたあと口角を少し上げて悪辣に微笑んだ。

一旦香穂子の上から退いて、柚木は後ろに回ると今度は抱え込む形に体勢を変える。




「ユズ、おいで」

「ワン!」

「柚木先輩っ、許して・・・やあぁ・・・っ!」




柚木の呼ぶ声に反応し、ユズは嬉しそうに駆け寄った。

許しを請う香穂子を無視してその足をユズ側へ開かせる。

ユズは中心部に鼻を寄せクンクンと嗅いだあと、ぺちゃりと音を立てて舐め始めた。

ザリザリとした人じゃない舌の感覚に香穂子は背後の柚木に凭れ、クッと喉を反らす。




「やめ、させて・・・っ・・・お願い・・・!」

「本当に嫌なの? その割にはすごく反応が良いけれど」

「ふ・・・ああぁ・・・・っ」

「やっぱり感じてるじゃないか。 ・・・ムカつくね」




自分で唆しておきながら勝手な事を言っている自覚はあるが、こうして乱れる香穂子を目の当たりにするとやはり妬けるのだ。

柚木は少し香穂子の身体を浮かして昂ぶった自身を取り出してそのまま貫いた。

蜜がとろとろに溢れているそこは慣らす必要もなく簡単に柚木を受け入れる。

しかし中に入った瞬間、ものすごい締め付けを感じて僅かに眉をひそめた。

達しそうになるをなんとか抑えて柚木は深い吐息をつく。




「・・・・もしかして、俺が欲しかった?」

「・・・ッ、先輩がずっと焦らすから・・・・!」




香穂子はこの状況でも変わらず憎まれ口を叩くが、それは問いかけに肯定するもの。

思わず満足げに微笑ってしまうけれど、それだけでは許してやらない。

柚木は激しく香穂子を攻めたてながら耳元には優しい口調で囁いてやる。

だが、その内容は彼女にとってとても酷な事・・・・・・。




「気持ちいい? だけど、イッたら駄目だぜ」

「あぁ・・・っ、む・・・り・・・・っ」

「破ったらお仕置きだからな」

「そん、な・・・・・・あ・・・ん・・・!」




後ろから柚木に攻められ、前はぴちゃぴちゃと犬に舐められている。

止む事のない快楽が香穂子を苦しめ、追い詰めていく。

暫くも経たないうちに限界は訪れる。




「あっ、あっ・・・・もう・・・・・っ!」

「香穂子。 駄目だって言ってるだろう」

「ひあぁ・・・っ、も・・・・ゆる、してぇ・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「柚木先輩・・・・ッ」




必死になって懇願する香穂子を見て柚木は笑みを浮かべる。

自分しか映っていないその瞳が見たかった。


汗で張り付いている髪を払ってやり、香穂子の目元に軽く優しい口付けを一つ落とす。

そして穏やかな口調で囁く。




「じゃあ、ちゃんとお願いしてごらん。 前に教えただろう?」

「・・・・は、い・・・・」




香穂子は小さく頷くと柚木の方に首を伸ばす。

柚木も協力して少し身体を屈ませると、唇同士が重なり合った。




「・・・お願いします・・・・い、達かせて・・・ください・・・っ」

「いいぜ、良く出来ました」




そう言うと繋がったまま体勢を変え、今度は向き合う形になる。

香穂子が嬌声を上げて柚木にしがみ付き、柚木もその背に腕を回した。

二人はしっかりと抱き合い、高みへと昇る。




「あ・・・あアァ――――・・・!」

「くッ・・・、香穂子・・・・・っ!」










疲れ果てて眠っている香穂子の身体を拭いて、柚木は尚も膝の上に抱いていた。

静寂を保った心地の良い空間に、クゥン・・・という甘えた声が響く。

声の方へ視線を向ければユズが退屈そうに伏せていた。

柚木は香穂子を抱く腕に少しだけ力を込めてユズに言う。




「今回だけだよ、こうして遊んでやるのは」




そう。 自分以外のものに香穂子を触らせてやるのは今日で最後。

例えそれが彼女に買い与えた犬であっても。



―――― 香穂子に触れて良いのは、俺だけだから。










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★あとがき★

お待たせしましたー! これは郁さまに献上いたします。
なんだか、視点が定まらずに申し訳御座いません・・・・ (汗)
そして、ゴールデン・レトリーバーは柚色に欠片も似てない、という突っ込みはご勘弁を・・・。

今回はいつもより柚木をサディストにしてみました。
でも、ご要望どおり愛だけはある積もりです! (犬に妬いちゃうくらいですし・・・・)
こんな駄文で宜しければ、どうぞお納め下さいませ〜。
郁さまのみお持ち帰り可能です。