Doesn't Forget
『宿命』だったんだ、なんて割り切れるほどオトナじゃない。
だからと言って、一緒に逝くほどコドモでもない。
今の自分に出来るのは、お前を忘れない事だけ・・・・。
今でも、愛しているんだ。
永遠に、君だけを――――・・・・・。
〜 梓馬SIDE 〜
香穂子が居なくなって10年もの月日が流れた。
俺は家が運営している事業の一つを継ぎ、今では『社長』の地位にいる。
それなりに忙しい毎日だけれど、充実しているなんて思わない。
祖母の敷いたレールの上を歩み、上り詰めただけで何の達成感もない。
「社長、本日の予定はこれで終わりです。 明日も同じ時刻にお迎えに上がりますね」
「あぁ・・・」
自宅前での遣り取りは数秒で終了し、運転手は一礼して車を走らせた。
「・・・ただいま」
玄関前で帰宅を知らせればトタトタと小さな足音が近づいてくる。
「お義父さま! お帰りなさい!!」
「ただいま、祐樹。 いい子にしてた?」
「うんっ! 今日ね、家庭教師の先生に褒められたんだよ!!」
そう言って抱きついてくる祐樹の頭を『偉いね』と言って優しく撫でてやる。
祐樹は俺の本当の子じゃない。
子供を作ろうと思えば出来たけれど、気が乗らなかった。
―――本音を言えば、香穂子以外の女を抱く気はない。
子供が『会社』に必要なら養子を迎えれば済む話だ。
勿論、祖母はあまり良い顔をしなかったけれど、今まで散々言う事を聞いてきたのだから
これ位の我侭は通させてもらった。
「あなた、お帰りなさい。 ご飯出来てますよ?」
「ただいま。 悪いけれど、外で食べてきたから今日は遠慮しておくよ」
・・・いや、今日『も』と言うべきか。
妻もそれは予想の範疇だったのか、さして表情を変えなかった。
「そうですか。 なら、お風呂にします?」
その言葉に今度は頷く。
とりあえず、一日の疲れ――精神的なものを含めて――を癒したい。
上着だけ脱いで、後はそのまま風呂へと足を向ける。
浴室のドアを閉める前、妻の溜め息が聞こえたが俺は何も言わずに扉を閉めた。
****************
風呂を出て、部屋着の浴衣に袖を通し、居間へは行かずに自室で寛ぐ。
月だけで充分な明るさを保ったこの部屋は、電気などいらない程だった。
窓から夜空を見上げていると、不意に襖が開いて一つの陰が映る。
「あなたはこの部屋が好きなのね」
「・・・・祐樹は?」
その言葉に何も答えず、逆に問うた。
彼女は俺にそっと近づいて、肩に手を添える。
「寝たわ。 ・・・・だから・・・」
言いたい事が手に取る様に解り、それと同時に嫌悪感が触れられた所から込み上げる。
直ぐに手を振り解きたい衝動を抑えて、やんわりと肩の手を彼女へと押し戻す。
「ダメだよ。 約束したでしょう?」
そう、俺は婚約を決める前に言ったはずだ。
『僕は君を愛せないし、抱かない。 それでも良いなら婚約しよう』―――と。
予想通り、彼女は首を縦に振って約束は交渉成立。
それを今になって覆すなんて許さない。
・・・・まぁ、その時は『離婚』と言っておいたから大丈夫だとは思うけど。
もし、祖母が何か言っても『夫婦間の問題』とでも言えば流石に口は挟めない。
「いくら夫婦と言えど約束は守らなきゃ、ね?」
ダメ押し、とばかりに優しく囁けばコクリと不服げにだが頷いた。
それを見て俺は心の中で嘲笑する。
けれど、表情には微塵も出さない。
口調はあくまで穏やかに就寝を促せば、彼女は諦めて床につく。
俺もその隣に、背を向ける形で横になった。
―――この時間だけは、誰にも譲らない。
夢の中だけに限られた、香穂子と逢える時間は・・・・・・。
幻でもいい。 お前にさえ逢えれば何だって良いんだ。
このまま、ずっと眠っていたいけれど・・・・お前はそんなこと望んでいないんだろ?
また怒らせたくはないからね、ちゃんと生きるよ。
次に巡り会えるとしたら、今度は二人笑顔で過ごしたいね―――・・・・。
「愛しているよ、香穂子・・・・」
この声がお前の元まで届けばいい、と願いながら俺は目を閉じた。
完
*************
★あとがき★
うっわー、サイアク・・・。
これは柚香推奨者として許されるのか・・・??(滝汗)
・・・にしても、冷め夫婦だ〜。
いや、むしろ仮面夫婦??(笑)
やっぱり、柚木さんの一番は香穂ちゃんじゃないと!!
「なら、殺すなよ」という的確な突っ込みはナシの方向で・・・・(汗)
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