Voice






「・・・ねぇ、お兄ちゃん。 昨日の録画を頼んだビデオ見てもいい?」

リビングで珈琲を啜っている兄に、香穂子は思い出したように尋ねた。

「ああ、構わないよ。 俺の部屋にあるから適当に探して持って行けよ」

「うん、解った」

そう言って、香穂子はわくわくしながら階段を登って兄の部屋に向かう。

昨日は忙しくて観る事が出来なかった番組だが、今日は暇なのでゆっくりと観られる。

早く観たい一心で、兄の部屋の扉を開けた。

兄妹と言えど、部屋に立ち入る事は滅多にないので何処に何があるかなんて解らない。

香穂子はテレビ周辺を探すけれど、ビデオは見当たらず困惑した。

汚い、とまでは言わないが・・・・それなりに物が多いこの部屋での捜索は少し困難かも知れない。

床に散乱している大学のレポートらしき紙類を机に置いて、とりあえず見通しが利くようにはなった。

「・・・・ふぅ。 やっと探せるよ、もう・・・」

同じ男の人の部屋でも、柚木先輩とは大分違うな・・・と内心で苦笑する。

洋室と和室の違いもあるけれど、それを抜かしたとしても柚木の部屋はもっと綺麗だった。

「・・・いや、あれは物が少ないって言うのかな?」

ポツリと呟いて、自分がニヤけている事に気付く。

香穂子は慌てて緩んだ頬を引き締め、再び目当てのビデオを探し始める。

視線を彷徨わせて・・・・・ふと瞳がベッドの下に止まった。

重なっていた雑誌とベッドの下に隠れるようにして、黒いビデオテープがあった。

「人のビデオをこんな所に! 見付からない筈だよ・・・」

溜め息を吐いて、文句の一つでも言おうかと思ったが・・・・あの兄に何を言っても流されて終わるに決まっている。

それならば自分の部屋でゆっくりビデオ鑑賞した方が有意義だ、と思い直し止める。

香穂子は気持ちを切り替えて自分の部屋へと向かった。








自室に戻ると、お茶とお菓子を用意してゆっくり観れる準備を整える。

「・・・これで良し! あとはビデオをセットするだけだね」

先程の疲労感も忘れ、香穂子の気分は浮上し始めた。

ビデオを挿入して、再生ボタンを押す。

巻き戻っていなかったのか、突然パッと画面が明るくなった。

『ひぁ・・・っ、先輩・・・ダメぇ・・・・!』

『お前のココはダメなんて言ってないぞ?』

『やぁぁっ・・・』

「・・・っ!?」

聴こえたのは女生徒の、あられもない嬌声。

その彼女の制服を乱しながら、学ランを着た男子生徒が淫らな言葉を囁く。

『や、あんっ・・・イっちゃう・・・』

「―――― っ!!」

香穂子は堪らずにテレビの電源を切った。

そして、デッキからビデオを取り出すと・・・兄のビデオだという事も忘れ、それを放り投げた。

ガシャっと派手な音を立ててビデオは床に落下する。

「こ、これ・・・アダルトビデオじゃん・・・っ!!」

頬は火照り、昂ぶった気持ちを落ち着ける為に淹れたお茶を一気に飲み干す。

しかし、気持ちは落ち着く所か・・・・ますます鼓動が早くなっていく。

「ね・・・眠れば落ち着くかも・・・」

そう言って香穂子は電気を消して、ベッドの布団を頭まですっぽりと被った。

静かな部屋に響く秒針の音を聞きながら、ギュッと瞳を固く閉じる。

けれど、こんな状態で眠気などくる訳もなく・・・・・。

冴えた頭は先程のビデオの事ばかり思い出させる。

「・・・柚木、先輩・・・・」

うわ言のように呟くと、じわりと身体の奥から熱が込み上げてきた―――。

「な、んで・・・」

我慢して眠ろうとしても疼きは増し、瞳を閉じていれば更に意識してしまう。

受験生である柚木に遠慮して、最近は身体を重ねていなかったので

知らぬ間に溜まっていたのかも知れない・・・・。

「は・・・ぁ・・・っ」

深呼吸をしようと息を吐けば、それは熱い吐息へと変わる。

無意識の内に恐る恐る下着の上から疼いているソコをそっと指で撫でた。

「んっ・・・」

途端にビクリと身体が跳ねて、蜜が溢れ湿っているのが下着越しにも解る。

やめなきゃ、と思うのに・・・・指が止まらない。

こんなところ・・・・もし、柚木に見られでもしたら・・・・。

彼に軽蔑されてしまうかも知れない―――。

「やだ、よ・・・っ!」

そう思うのに。

身体は裏切り続ける。

「・・・ふ、ぁ・・・・」

ぎこちない手つきながらも確実に快楽を拾い、次第にくちゅりといやらしい水音が鳴り始めた。

もう直ぐで達しそうな所で、携帯の着信メロディが鳴る。

それは柚木専用で、出ない訳にもいかず・・・・中途半端に高められた身体を持て余しながらも電話に出た。

「も、もしもし・・・? 柚木先輩?」

『そうだよ。 最近、ゆっくり二人で会う時間なんてなかったからね・・・・せめて、声を聴きたくて』

「は、ぁ・・・っ、私も・・・寂しかった・・・・です・・・」

指を止めて乱れている呼吸を整えようとしても、切れ切れにしか話せない。

勘の鋭い柚木には気付かれた・・・かも知れない。

案の定、彼は暫く黙り込んでしまった。

『・・・・お前、今だれと一緒に居るわけ?』

不機嫌な声で予想外な事を問われ、香穂子は呆気に取られた。

「えっ? 今は自室で・・・一人ですけど・・・」

『一人? ・・・ああ、そうか・・・一人で、ね・・・』

柚木は一瞬考えるように呟いて、直ぐに状況を察し納得する。

――― バレた。

「あ、あのっ・・・」

何とか誤魔化そうと香穂子は真っ白な頭で言い訳を考えた。

何も思い付かないまま言葉を発するが、それはタイミング良く柚木の言葉とぶつかる。

『聴いててやるよ』

「・・・・え?」

『聞こえなかったか? お前の声、電話で聴いててやるって言ったんだよ』

「な・・・っ! こ、声なら今聴いてるじゃないですかっ!!」

自分でも苦しいとは思うが、ここはもう白を切るしかない。

実際に声を聴かれるのと、電話越しに・・・・それも、一人でしている時の声を聴かれるのは

恥ずかしさの度合いが違うのだ。

けれど、そんな言い訳など柚木に通用する筈もなく。

『往生際が悪いな。 ・・・じゃあ、明日はお仕置き決定だね』

「なんで、そうなるんですか!」

『俺の言う事を聞かなかった罰、だよ・・・』

クスクスと柚木の愉快そうな笑い声が聴こえ、顔が見えなくても彼が今どんな表情をしているかなんて

容易に想像がついた。

意地悪な表情で話している姿を脳裏に思い浮かべ、香穂子はそっと溜め息を吐く。

このままでは完全に柚木のペースだ。

「・・・・受験勉強、頑張って下さいね。 お休みなさい」

そう言って携帯の電源を切ろうをしたが、名前を呼び止められて再び携帯を耳へ持っていく。

聞こえない振りをして電源を切ってしまえば良いのに・・・・と思わなくはないのだが、全て無意識の行動だった。

『香穂子、熱くはない?』

また唐突に問われ、首を傾げる。

「部屋は空調が整ってますから、別に平気ですよ?」

『そうじゃなくて・・・・身体、まだ火照っているんじゃないのか?』

「―――柚木先輩!?」

いきなり何を言い出すのか、と非難めいた声を上げる。

『そのままじゃ辛いだろう?』

唆すような低い声で囁かれ、香穂子の頬はカッと朱に染まった。

折角忘れかけていた熱が再び身体を燻ぶる。

「・・・や・・・っ・・・」

頭を振って熱を逃がそうと試みるが、柚木は更に巧みな言葉で香穂子を攻めてくる。

『嫌じゃないでしょう。 下だって・・・もう大変なんじゃない?』

「あ・・・」

拒絶の言葉ではなく、香穂子は熱い吐息を漏らす。

理性で抑えていたものが遂に決壊してしまったのだ。

それを悟った柚木はクスッと小さく笑い、今度は優しい声で誘う。

『楽にしてあげるから、俺の言う事を聞くんだよ。 いいね?』

「・・・・はい・・・・」

熱に侵された香穂子は電源を切る事も忘れ、柚木の言葉に頷くのが精一杯だった。








***************








「・・・やっ、ああぅ・・・っ」

『足を限界まで開いて、指を中で曲げてごらん』

香穂子は片手に携帯を握り締めながら足に絡み付いているパジャマと下着を蹴るように脱いで

言われた通りに足を広げた。

そして、もう片方の手は溢れかえる蜜壷の中でクッと指を曲げる。

「―――ぁんッ!」

ある部分を掠めたら途端に腰がビクリと跳ねた。

『ふふっ、見つけたか? そこがお前のイイ場所だよ』

何度もそこを触ったらトロリと大量の蜜が溢れ出す。

『・・・あとは、少し上の膨らんで尖ってる場所も指で擦って』

「・・・・こ、こ・・・?」

一旦指を抜くと香穂子は花芽を遠慮がちに撫でる。

たったそれ程の僅かな刺激なのに、電流が走ったみたいに身体が痺れた。

「やだっ・・・ここ、いやぁ・・・!」

香穂子は幼い子供みたいに首を振って哀願するけれど、そんな頼みは柚木によって一蹴される。

『嫌じゃないでしょう。 ほら、早く触って』

優しい、だが静止を許さない威圧的な声で促す。

普段からの刷り込みなのか、香穂子は身をビクッと竦ませてのろのろと指を動かした。

「・・・んっ、うあぁ・・・!」

元々敏感な花芽は小さな刺激でも大きな快感を生み出してしまう。

更に溢れる量の増した蜜は部屋中に響き渡った。

『・・・・もっと激しく』

「あっ・・・や、ああァ―――・・・ッ!」

蜜のぬめりもあって指は滑るように速度を増す。

ぐちゅぐちゅという水音が香穂子の聴覚を犯した。

『お前のいやらしい音、こっちにまで聞こえるぜ・・・?』

「やぁ・・・聞か、ないで・・・・っ!」

快楽に酔った身体はもっと刺激を得ようと腰が揺れている。

手も止まらず、香穂子はどんどん高みへと昇っていく。

「はっ・・・ぁ・・・んんッ」

『そろそろ限界かな・・・? ちゃんと声を出してイクんだよ』

「あぁっ、あ・・・ああああぁ・・・・・っ!」

香穂子はグッと背を撓らせて、シーツを踵で蹴った。

「はぁ、はぁ・・・っゆの、き・・・先輩・・・」

『可愛かったよ。 姿が見られないのは残念だけど・・・・勉強の合間の良い息抜きにはなったな』

柚木の満足そうな声を、達した余韻と疲れで徐々に霞んでいく意識の中、香穂子は虚ろに聞いていた。

『ふふっ、もう夢の中にいるのかな。 ・・・・お休み、香穂子』

「おやすみ、なさい・・・」

どうにかそれだけ言って通話を切り、香穂子は深い眠りへと誘われた・・・・。









翌日―――。

「おお、香穂子。 今日は随分とのんびりな朝だな」

そう言って食卓に座り珈琲を飲んでいる兄を見て、香穂子は昨日の事を思い出し憤慨した。

元はと言えば、この兄の所為なのだ。

「お兄ちゃんの馬鹿っ! 部屋くらいちゃんと片してよね!」

「・・・はぁ? 何でそんな事でお前に怒られなきゃいけないんだよ?」

「自分の胸に聞いてみれば!?」

事情が解らない兄は怪訝な顔をして、香穂子は朝食も摂らずに家を出た。

腹の虫が収まらないまま、玄関の扉を開く。

すると、目の前には一台の黒い車と・・・・柚木が立っていた。

「・・・・っ!」

「おはよう、香穂子」

笑顔で挨拶をする柚木を直視出来ないまま、小さな声で『おはようございます』と、挨拶をする。

昨日の話題を出されたくなくて俯いていると、柚木はおもむろに近づいてそっと香穂子に小声で耳打ちした。

「・・・・昨夜はとても可愛かったよ?」

「・・・!」

途端にバッと顔を上げて柚木を睨む香穂子は耳まで真っ赤に染まっている。

他人が見れば恋人同士が朝からイチャついている光景にしか見えないが、当事者である香穂子にとっては

虐め以外の何ものでもない。

その話題に触れて欲しくないのを知っていて、わざと言う柚木はやはり意地悪だ・・・・と、香穂子は改めて思い知った。

そんな性格の人間を恋人に持つ香穂子の受難は今日も続くのだろう・・・・。









***************

★あとがき★

不意に思い付いた、電話H・・・。
柚木に見られながら自慰する話と迷いました。
最近、うちの柚木さんは香穂ちゃんに優しいから、たまには意地悪な彼を書きたくて・・・!
ちゃんと意地悪になっていたら良いんですけどね(苦笑)